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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)175号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

原告の主張するところは、補正後の発明が第一ないし第三引用例の記載に基いて容易に発明をすることができたものであるとする審決の判断は誤りである、というのである。

成立に争いのない甲第一号証の一ないし三及び当事者間に争いのない請求の原因二、の事実によれば、第一引用例に記載のものは、本件補正後の特許請求の範囲の前段に、補正後の発明の前提条件として規定された超音波遅延線(すなわち、ガラス体より成り、該ガラス体上には電気エネルギーを超音波機械振動エネルギーに変換し、また、その逆の変換をする二個のトランスジユーサーを設け、該トランスジユーサーは前記ガラス体の厚さ方向に対し直角に延在する境界表面と、該境界表面に対し直角を成すこれらトランスジユーサーと前記ガラス体との接触表面とに平行な方向に成極し、前記ガラス体の厚さは超音波機械振動の波長の二~三倍とした超音波遅延線)に相当するものであることが認められる。したがつて、補正後の発明は、かかる超音波遅延線を前提として、その特許請求の範囲の後段に規定する減衰区域を設けた点を特徴とするものと考えられる。

次に、成立に争いのない甲第二号証の一・二によれば、第二引用例に記載のものは、前記の第一引用例に示されるような反射型超音波遅延線において、超音波の所望通路以外の部分に、不要信号を散乱又は減衰させる区域を設けたものであつて、「超音波の所望通路以外の部分を超音波の減衰区域として設計して成る超音波遅延線であつて、これら減衰区域が、厚さ方向に平行な側面での少なくとも一回の反射を含む超音波振動の折返し通路を規制するように、境界表面の周縁から離間した島として設けられている」点で補正後の発明と共通するところがあるが、この第二引用例に記載のものは、減衰区域を貫通孔とし、所定の通路を外れた伝播波(不要信号)を貫通孔の周囲に衝突させて散乱又は減衰させるようにしたものであつて、補正後の発明のように固体遅延媒体の境界表面(伝播波の進行方向に延在する表面)上に存在させた減衰区域によつて不要信号を減衰させるものとはその具体的構成を異にしていることが認められる。

ところで、成立に争いのない甲第三号証の一・二によれば、超音波遅延線において不要信号を減衰させるために遅延媒体の表面上に減衰区域を設けること自体は第三引用例にも記載されていることが認められるが、同号証によれば、この第三引用例に記載のものは、入力トランスジユーサーより出力トランスジユーサーに向つて遅延媒体内を直線的に進行せず、厚さ方向に平行な側面(小表面)で反射する波(不要信号)を処理する対策として、この小表面、換言すれば、所望通路から外れて進行する不要信号が入射して衝突する側面上に減衰区域を設け、このようにして小表面上に設けた減衰区域(吸収材)を大表面(境界表面)の縁部上まで延長させたにすぎないものであることが認められるから、第三引用例に記載のものも、補正後の発明のように、遅延媒体の境界表面(ガラス体の厚さ方向に対し直角に延在し、不要信号の進行方向に延びる大表面)上に所定の超音波折返し通路を規制するように島状に設けた減衰区域によつて不要信号を減衰させるものとは技術思想を異にするものと推認される。

他方、成立に争いのない乙第二、第三号証によれば、補正後の発明のような超音波遅延線の振動モードは、その振動の方向が進行方向に直角で境界表面に平行な「すべりモード」であり、SH波として遅延媒体(板状ガラス体)を伝播すること、かかるSH波が板状物体を伝播する場合、境界表面において振動の振幅が最大になることが本願発明の特許出願前より周知であつたことが認められるが、このような理論的事項が周知であつたとしても、SH波を伝播波とする反射型の超音波遅延線において、補正後の発明のように、境界表面上の特定個所に位置させた減衰区域によつて不要信号を有効に除去しようとする技術思想までを、前記第一ないし第三引用例の記載から導き出すことはできない。

そして、補正後の発明は、既述のように、減衰区域を特に境界表面上に所定の折返し通路を規制するように位置させることを要件とするものであり、成立に争いのない甲第一一、一二号証によれば、補正後の発明は、作業の比較的簡単な技術手段によつてこのような要件を備えたものをつくり出し、不要信号を有効に除去することができる顕著な作用効果を奏するものであることが認められるから、補正後の発明が第一ないし第三引用例の記載に基いて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

原告の主張は理由があり、補正後の発明が独立して特許を受けることのできないものであることを前提として、本願発明の進歩性を否定した審決の認定判断は誤りである。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 本件補正前のもの

ガラス体より成り、該ガラス体上には電気エネルギーを超音波機械振動エネルギーに変換し、かつ、その逆の変換をするトランスジユーサーを一個以上設け、超音波の所望通路以外のガラス体部分は超音波減衰区域として設計した超音波遅延線において、前記ガラス体はその厚さを機械振動波の波長の〇・五~五倍とし、前記トランスジユーサーを前記ガラス体の厚さ方向に対して直角に延在する境界表面と、該境界表面に対して直角をなすこれらトランスジユーサーと前記ガラス体との接触表面とに平行な方向に成極し、かつ、前記ガラス体内を伝播する超音波の方向にほぼ平行に延在する前記境界表面の適当に選択した部分をこの超音波の減衰区域として設計したことを特徴とする超音波遅延線。(別紙図面参照)

2 本件補正後のもの

ガラス体より成り、該ガラス体上には電気エネルギーを超音波機械振動エネルギーに変換し、その逆の変換をする一個以上のトランスジユーサーを設け、該トランスジユーサーは前記ガラス体の厚さ方向に対して直角に延在する境界表面と、該境界表面に対し直角を成すこれらトランスジユーサーと前記ガラス体との接触表面とに平行な方向に成極し、前記ガラス体の厚さは超音波機械振動の波長の〇・五~五倍とし、かつ、超音波の所望通路以外のガラス体部分は超音波を減衰する区域として設計して成る超音波遅延線において、これら減衰区域は前記境界表面の一方又は双方上に、厚さ方向に平行な側面での少なくとも一回の反射を含む超音波振動の折返し通路を規制するように設け、前記減衰区域の少なくとも一個は関連する境界表面の周縁から離間した島として該境界表面上に位置させたことを特徴とする超音波遅延線。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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